銀の魔術師と妖精死譚

3.手紙 02
ぎり、と慧の眉が寄った。
「……やってくれるな」
「叔父さんって、私らにやたら差別発言吹っかけてくるおっさんでしょ」
「たしかな」
慧は渋い顔のまま手紙を畳んだ。
信太を回収し、夏葵達が帰ってから後、慧とあかりは膝を突き合わせていた。
さっきまで手紙を覗き込んでいたあかりの顔も険しい。
「というか、よく師範を取り込めたな。あの人つかない限り反逆できそうになかったけど」
「あの人もかなり差別があるからね……本家だ別家だ男だ女だ、って」
「生き残るためにここまで上り詰めたとはいえ……」
慧とあかりはそろってため息を吐いた。
後ろから不安そうに信太とヨミが様子をうかがっている。
「芳史も、チビ2人寄越すってことは最初から断らせるつもりもないわね」
「……断れないさ」
で、どうする、と慧はあかりに訊いた。
明桂学院の高等部は、もうすぐ早めの春休みに入る。
行く気になれば、あかりも行ける。
「んー……」
背中に引っ付く信太を膝に抱きかかえながらあかりが考えはじめる。
「慧兄、あいつら抹殺したい?」
「いや、そこまで思ってるのはあかりだけじゃないか」
師範は一応謝意はある。今回の行動は残念だが、それでもだ。
芳史の叔父は、ただ迷惑なだけ。
慧にとってはそうだが、それは慧が男だからであって、女のあかりにとってはそうではない。
女のくせに――師範の口癖だ。
誰よりも頑固で負けず嫌いなあかりが、それを忘れているわけがない。
「芳史の要請があったとあれば、正々堂々ぶちのめしたところで何の問題もないわね」
「芳史の立場が悪くなる可能性はあるが」
「脅かすような奴が他にいる?」
慧とて伊勢山の人間全部を把握しているわけではないが。
直系の芳史にとって、親族で年上の人間が一番対処しにくい。それ以外は神舞だけが芳史にとって障害になる。
「いないな。――じゃああかりが行くんだな?」
「そうね」
狭霧は持っていけないだろうけど、闇戸は借りるわよ、と神社の宝刀の確認をする。
「親父はいい顔しないぞ」
「闇戸だけよ」
他は伊勢山で使ってた装備でなんとかする、とあかりは言い切った。
「あとはー……現地調達ね。武器庫の場所わかる? 変わってない?」
「うー……ん?」
しばらく信太は首を傾げ、ゆっくりと頷いた。
最悪わからなくても、芳史探しに奔走する中で一緒に探せるだろう。
じゃ、とあかりは信太を膝から降した。
「学校終わったら即あっちに発つわ」