銀の魔術師と妖精死譚
8.不死者は語る 03「これはまた、随分と多いなぁ」
「それは武藤斎に言え」
しんしんと雪が降りしきり、あたり一面白いのにもかかわらず、夏葵の前には闇が凝っていた。
妖音が低く笑い、蝙蝠傘を揺らした。
「それは無理だろう? あの武藤斎は、もうどこにも存在しない」
夏葵は妖音を睥睨していたが、二人の間に置かれたビニール袋に視線を落とした。
中には血まみれの人形やヒトガタが無数に入っている。
矢島が回収してきてくれたものだ。
そのあまりの量に、香葵が「サンタクロースみたい」と言い、あかりが「大黒様ね」と呟いたほどである。
「それから、これだ」
夏葵はあかりに預けていた小刀を妖音に放った。
「おぉ、危ないな」
「妖音、お前の仲間に仮面の男っているか」
「仮面がどうした」
するりとどこかに刀を仕舞い込んだ妖音が首を傾げる。
「武藤斎に情報を横流ししていたらしい男だ」
「…………ほう」
妖音が目を細める。そうしてくく、と笑った。
「そうか、仮面の男が」
妖音が屈み、蝙蝠傘から雪が滑り落ちる。
「……何を知っている?」
「俺の知ってる仮面の男は、一人じゃないってことくらいだなぁ」
妖音がビニール袋を手にして腰を伸ばす。
なかなか多いものだ、と音無く唇が動き、また笑った。
「あとでこれをどう処分したか知らせにでもこよう」
「その時にこそ、担当者を替えてくれ。もうこれ以上お前の顔を見るのはごめんだ」
夏葵はそういって、くるりと背を向けた。
もうかなり雪が深い。これほどの大雪は何年振りだろうか。
背中で妖音の気配が揺れるように消えた。