銀の魔術師と妖精死譚

8.復讐者は眠る 03
仕方ない、あの男との、失敗したら喋るという約束だ。
「あなただって向こうから情報を引き出してるんでしょ? だったらあの男から聞いてるんじゃない?」
斎は瞼を閉じた。
表情の読めない無機質な仮面の顔。最後に会ったのはいつだっただろうか。
そういえば、平瀬に来てからはもう1度も気配すら感じたことはなかった。
夏葵についたのだろうか。だとしたら、この結末は、自分で用意した、自分で臨んだ結果と同じではないか。
斎は小さく笑った。
「…………」
夏葵は応えない。
斎は息を吐き、あかりに視線を向けた。

「ねえ、」
何処まで知ってるの?
夏葵のまとう空気が冷たさを増す。
「私と同じバケモノなのよ、この男。本当のことを知ってる? 知った日には気味が悪くて、とても一緒に何ていられなくなるわよ」
「…………」
あかりを見る。静かに瞬きをする様子に、動揺は見られない。
やがて首を傾げると、淡々と口を開いた。
「何を以って本当とするわけ? それに、あんたが情報をばらしているじゃないの。それに、夏葵が違うってことくらい、とっくの昔に知っている。今更ね」
あかりはそういうと、斎に興味をなくしたようだった。
あかりに抑えられていた手も、腹部にやっていた手も、実体を失っていた。
「じゃあ、あなたがいる神社の、大昔に、忘れられた意味も?」
「必要ならいずれ、何かの折に知ることになる。そもそもわたしは、あんたの発言を信じるつもりはない」
興味がない、というのが声に出ていた。
奥にいるもう一人の神社の少年も、揺らぐ様子はない。

どうにも硬いと、斎はため息を吐いた。
どうしてこの街の少年少女は、こうも意思が固いのだろうか。