銀の魔術師と妖精死譚
8.復讐者は眠る 02絶望して後悔するわよ、と斎は言った。
人の死を見れば見るほど、不死者は不幸になる。丁度夏葵くらいの頃は、斎も気が付かなかったが、時間を経るごとに、そうなる。
だから、今のうちに死んでしまえば、楽なのに。
「お前が人の幸不幸を勝手に語るな」
見下ろす夏葵の目は、ひどく無機質で、ガラス玉のように冷たかった。
だが、斎は喋るのをやめない。
傷口からは血ではなく、赤黒い靄が融け出るようにあふれている。それはどんどん広がり、体を侵食していた。
まだ、喋れるうちは。
私は、間違っていないのだから。
「かたる、わ。夏葵君、あなたはいづれ、自分の境遇を呪うわ。人を、世界を呪う。憎む。死ねないという理に憎悪を向ける。私たち不死者は、死ねばそれから解放される」
何も知らないただの人間に口出しなどさせない。何も知らない人間が、慰めも、口出しも、ましてや止めることもできるものか。
「人間は……私を好奇と不審で見た人間は、生きながらに死んでいるという矛盾を味わえばいいのよ。味わって、後悔すればいい」
夏葵がふと首を傾げた。
「……お前、その知識は誰から手に入れた」
もう、斎の半身は消えようとしていた。
赤黒い靄が風に薄れる。
斎はふと、それがヒトガタと同じ色だと気が付いた。
「君は何処まで知ってるの?」
刺されたところは、もう完全に消えていた。消えるに従い、痛みは消え、意識だけが重くなる。
「さあ?」
この状態の斎にもわかるのだから、夏葵はすっとぼけているのだろう。
どこかその様子が空々しいのだから。