銀の魔術師と妖精死譚
7.魔術師は夜を駆け 02「矢島は頼んだ通り、人形の回収始めるってさ」
時折耳を澄ませる様子を見せながら、香葵はメールを確認してそういった。
夏葵はそれに答えず、再びダウンジングを試みる。
10分ほど粘ってみるが、やはりまともな反応を見せない。
仕方なく、夏葵はより強力な魔術を用意し始めた。
今回の作戦もあかりに言わせるとひどく単純だった。出所を見つけて、発見次第破壊する。
ただし今回は、出所が人であることから、いつになく物騒でもある。
夏葵はあかりが小刀を引き受けるにあたって、かなりいろいろ言ってきた。
武器そのものが致命的なうえ、排除方法がこれしかないから。
――本当にいいのか、後戻りはできないんだぞ、と。
そんなことを言ったら、あかりはとっくの昔に後戻りできなくなっている。
魔術の場で、そんな懸念は持つだけ無駄だ。
大切なのは役割分担と、分担を確実にこなすことだ。
それならば当然、夏葵が魔術であかりは武力である。
――まあ、わたしにはこれくらいしか取り柄がないしね。
低い声でぶつぶつと呟く夏葵の横顔を一瞥し、あかりは手元に視線を落とした。
夏葵が妖音というあの男から手に入れてきたという、致死レベルの刃物。
こんなものを持っているあの男はいったい何者なのか、あかりは聞かされていない。
だが、ただ人ではないことはわかる。
あの時、あの帰り道、どう考えてもあの男は、忽然とそこに現れたからだ。そして、消える時も。
魔術師だとしたら、どこか咬みあわない。
何か、何か違和感の原因があったはずだ。
気配は当然。それから妖音がいた間、妙に闇が深かったこと。
光沢が少なく、どろりと沈んだ髪と目の色は、不安を煽る紫を帯びていた。
歪な陰影を形作る、不自然な嗤い顔。喪服。
そういえばぼさぼさの髪から何かが覗いていなかったか。
夏葵が顔を上げた。
「――反応が出た。行くぞ」