銀の魔術師と妖精死譚

7.魔術師は夜を駆け 01
「まーたこの時期なわけ?」
あかりがどこかうんざりした様子でため息を吐いた。
「さっさと相手を潰すのは大賛成なんだけど、このタイミングで毎年毎年事件起こるのは勘弁願いたいわ」
「……計画潰しに大賛成なのはあかりくらいだ」
「仕方ないだろう。もともとクリスマスや正月は呪力活動が活発化する日だ。そこに人の意思が入ってくるんだからなおのこと」
一人忙しなく準備をする夏葵は、あかりと利ほど嫌な顔をしていない。
妖音から蠱毒の刀を受け取ってから2日、根回しや協力を求めたらクリスマスイブになってしまった。
高校は早めの休みに入ったものの、あかりと利はこの時季の徹夜を、例のごとく歓迎していない。
「それに、仮説が正しければ、武藤斎の計画の次段階は今日明日だ」
「夢と声、か」
夏葵は頷いた。
妖音が来た日以降、夏葵は毎晩夢で、雪の中に立つ斎の夢を見た。
香葵は見えない声から「雪」「覆う」「繋げる」という言葉をたびたび耳にしている。
武藤斎がこの平瀬の町に粘っている理由だけは未だわからない。が、気象条件とキーワードから、計画が動くのは今日の日没後からと夏葵は考えている。
「香葵にも意外な使い道があったのね」
香葵がいないのをいいことに、誰もあかりの放言を咎めない。
「そうだ、雪も呪力的な意味ってあるんだよな?」
「……それが俺の知る限りほとんどない。雪の神とか、神話では記述が少ない」
「え、でもアンデルセンとか」
「アンデルセンの童話の基本は創作だ。雪の女王やマッチ売りの少女の話があるから、伝承があるように思えるんだけどな」
夏葵が苦笑した。
「だから、そういう手がかりを探しても多分意味はないぞ。見たまま、自分の中にあるイメージや日常の情報を手掛かりにした方がよっぽどいい」
手がかりなしってことね、とあかりはすっぱり言う。
夏葵は準備を終え、心配と共に小刀をあかりに渡した。

「本当に大丈夫なのか?」
「ん、任せて」