銀の魔術師と妖精死譚

fragment3
夏葵はふと身じろいだ。
いつの間にか、机に突っ伏して眠っていたようだ。
乱れた髪をかきあげ、いつもはない気配に眉を寄せた。
「……お前か」
夏葵の背後の闇に、妖音の気配が鎮座している。
夏葵は振り返らない。机の上のタロットや小物を片付け始める。
さっきまでぼんやりとして夢を見ていた気がするが、あれはいったいなんだったのだろう。
「仕方なかろう? それにほら、言っていたものだ」
夏葵は後ろをちらりと振り返る。
窓枠に体を預けた妖音が片手に刀を玩んでいた。
そう大きなものではない。片手で扱える脇差や小刀程度のものだ。
「これならその細腕でも扱えよう?」
夏葵が見た目ほど柔でも非力でもないことを知りつつ、妖音がそういう。
「お前にはそうでないかもしれないが、危険物だから気を付けることだな。武藤斎に取られたりしないように」
夏葵はそれを受け取り、思うところがあってまじまじと妖音の顔を見た。
「…………」
「……どうした?」
妖音が首を傾げる。
夏葵は目を眇めた。
いつもの、神経を逆なでする笑みが、妖音の顔にない。限りなく素の無表情だ。
あちらで何かあったか。
それが夏葵にとって不愉快な方向への転換ではないことは事実のため、ゆるく首を振る。
「お前、もう決行する気か?」
「ああ、のんびり待ってたら後手に回る。頭を潰したほうが何かと都合がいい」
「……そうか」
妖音はそういうと、闇の中に去った。
夏葵はその変わりように首を傾げ、スマホを取り上げた。

道具がそろった。あとは決行するのみ。
たとえそれが、拙速であったとしても。