銀の魔術師と妖精死譚
6.ほころび 04夏葵は軽くこめかみを叩いた。
先ほど利から送られてきたメール。
――何かが、活動している?
夏葵には見えない、何か極小のものが。
「……………」
夏葵は眉間に皺を寄せた。
春先の一件を思い出してしまう。
現在、紅と花が捕まえるんだと躍起になっているらしいが、あまり期待はしないことにする。
「……夜霧」
『何だ』
窓に向かって声を投げかけると、すぐさま庭から応えがあった。
「お前、空中を飛び回る、虫のようなもの、見えるか?」
『…………?』
気配がゆっくりと首をもたげる。
しばらくの間、沈黙が続いた
『何しろ普段は目を開けていないのでな』
「そうか……」
『気を付けてはいよう』
「ああ、頼む」
見えないのならば仕方がない。
夏葵はため息を吐くと、立ち上がった。
部屋で探知の術か占いを試してみようか。そう思ってのことだった。
「うわっ!!」
「……香葵、お前何やった?」
キッチンで突然声を上げた香葵に、今度は何をやらかしたんだと夏葵は視線を向けた。
香葵は耳に手を当ててきょろきょろしている。
「なんか、突然耳元で声がして」
「は?」
「たまに人の話し声みたいなのが聞こえるんだよ。丁度廊下ですれ違った人が小声で話してるのが聞こえる感じで」
家の中に透明人間がいるみたいで気味悪い、と香葵は言う。
「なんて言ってる」
「さっきのは……たぶん『いつき』って。武藤斎のことかな……」
「……! 香葵、注意してそれ聞いておいてくれ。俺はしばらく部屋に籠る」
夏葵はリビングを飛び出し、部屋に入った。
香葵の聞いた声と、紅花兄妹が見たというもの。
――早急に調べなくては。