銀の魔術師と妖精死譚

6.ほころび 03
『ああ、見える。居るぞ』
「そうか……なら本当に居るんだろうな」

利はベッドに寝転がったまま髪を引っ掻き回した。
また紅と花が走り回っているらしく、階下が騒がしい。
狭霧神社だけの事象ではないことが、矢島のコールバックで判明した。
「神社の中にいるってことは、自然発生的なもの……だろうな」
『持ち込まれたとは考えないんだ。いくら神社の結界が頑丈だからって、必ずしも弾かれるってことはないよ、そこ』
矢島に言わせると、神社の結界にも隙はあるらしい。
「矢島の見立てだと、どうだ?」
俺?と携帯越しの声は、どこかどうでもよさげだ。
『俺にとっては正直どうでもいいんだけど……そうだな、集まってきたっていう可能性があることは指摘しておく』
「集まってきた……呪力にか」
そーそー、と矢島は何処までも軽い返事だ。
『今、正直、呆れるくらいいろんなものが活性化してるから、余所から集まってくる可能性だってあるわけ。休眠してたものが活性化した可能性だってある』
「ああ、それは」
前に高校で似たようなことがあった。確かに考えられる。
「ふむ……」
利はベッドから起き上がると、机に放り出してある紙にそれらの可能性を書き残した。
「そうだ。ガキどもが言うには、何か喋ってるらしいんだが」
『あー、うん。そう、何か言ってるというか、音を出してるというか』
矢島がため息を吐いた。
『あれに関しては気づかない方が楽なんだよねー。一回気が付くとずっと聞こえて気に障る』
「何を言ってるかまではわからない?」
『ああ』
「…………」
夏葵からの返信がまだないので何とも言えないが、利は、夏葵にも見えていないんじゃないかと考えている。
気が付いているなら、何らかの素振りがあるはずだ。
占いの類は夏葵はよくやっているが、それだって、求めている情報が必ず手に入るわけではないという。

「んー……」
『浅井、わからないものに余計な気を使っても無駄無駄。考えない考えない』
「そうは言ってもな」
『気を使うのお前だけだから無駄無駄』
その通りなのだが、だからと言って気に掛けなくてもいいと言う事にはならない。
『気に病むこと自体無駄』
矢島はきっぱりそう言うとじゃあねーと言った。
「……ああ、悪いな」
『んじゃ』
ぶつりと不快な音を立てて、通話が切れた。
利はベッドに倒れこんだ。

紅と花もいつの間にか大人しく、こそりとも物音はしなかった。