銀の魔術師と妖精死譚

6.ほころび 01
ぱたぱたぱたと、軽い足音を立てて、紅衣と花衣が走っている。
この兄妹霊がこうやって走り回るのは、今に始まったことではない。
だが、ここのところ、少し様子が違った。
目で何かをきょろきょろと追っていたかと思うと、急に駆け出す。
その様子は、蝶かトンボを無心に追いかけるそれだ。
まるで利には見えない「何か」が見えているかのように。

「紅、花、どうした?」
走り疲れたのか、目的を失ったのか、居間に戻ってきた2人の髪のほつれを梳きながら、利は問いかけた。
「なにかいるの」
紅が答えると、花が頷く。
「そう、なにかいるの!」
「何かって、何?」
「わかんない」
「あっちこっちにいてね、なにかしゃべってるの。つかまようとするとにげちゃう」
そりゃあ、あれだけ足音を立てて追いかければ逃げられて当然だろうが……。
いやそれよりも、

――何かが、いる?

すぅっと頭の芯が冷える。
夕べの夏葵の事といい、『知の探求者』といい、あまりにもうるさい周辺に加えて、得体の知れない何かが、また。
以前、ごくごく小さな蜘蛛を以って夏葵が陥れられた事件を思い出す。
知らぬ間にことが進むというのは、一番怖い。
紅と花が黙り込んだ利を、不思議そうに見上げてくる。
「……あんまり酷いことしたら駄目だぞ」
「うん!わかってる!」
子供の無邪気な返事ほど怖いものもないが……。
利は二人の頭をなでながら、放り出した携帯をまさぐった。
――夏葵に。あとは、そうだ。矢島にも。
訊かないといけない。
この何か、とは、一体何だ。