銀の魔術師と妖精死譚

fragment2
そろそろ夜の散歩にはマフラーが必要だろうか。
矢島は日課の散歩をしながら、鼻先が冷えるのを感じていた。
いや、普通に考えたら必要だろう。

そんなとりとめもないことを考えながら、矢島の目は呪力の流れを追っていた。
今矢島がいる場所は血染めの人形が発見され、もともと呪力が渦巻いてる場所だった。
それがここ数日、呪力が凝っている。
矢島の目には、黒い靄が立ち込め、蠢く影が映っていた。
もともと事故が頻発していた交差点である。この状態も道理である。
ただ気になるのは――ちらちらと動く小さなものが多いこと。

「…………?」
矢島は数歩下がって、交差点を俯瞰した。
「…………増えてる?」
そう呟いた直後、はっとして振り返った。

異質な呪力の流れ。

道は暗く視界は悪いが、呪力の流れで人がいることを認めた。
「……最近町の呪力いじくってる人だよね」
「あら、ばれた?」
闇の中から一歩、大学生風の女が踏み出した。

こそこそこそこそ、こそこそこそこそ

周りにたくさん飛び交っているものが、うるさい。
「霊視者の人だよね。探していたの」
「ふぅん」
「私、凪夏葵君を排除するつもりなんだけど、君もどう?」
「嫌だね。そんなことしたらあかりに口聞いてもらえなくなっちゃうじゃん」
利と香葵から話は聞いている。答えなど最初から一つだけだ。
あかりにだけは敵対しない。それが答えだ。
「そ……っか」
矢島はふと眉をひそめると、考えるより先に口を開いた。
「あんた……その呪力、生きた人間の呪力じゃないよね。――生徒会長の同類?」
背を向けかけていた武藤斎は、驚いたように振り返った。
「霊視者ってそんなことまでわかるの?あ、もしかして情報聞いちゃってた?」

矢島は険しい顔を崩さない。
矢島の目には、武藤斎の背後に、呪力が景色を映して見えてる。
暗い、闇の中の川。対岸に群生する赤い花。澱んだ水。――人型で血まみれの、人ならざる者。

――妖精?

どこかで見た、それは妖精に似ていた。
口が動く。
何だ、何を言っている。
不思議そうに武藤斎が首を傾げている。
それが突然、はっとしたように振り返った。
弾かれたように走り出す。
「あ…………」
追いかけようとは思わなかった。
その背に意識を集中する。
あの音無き声が、警告だったとしたら。

「――――見えた」