銀の魔術師と妖精死譚
5.街灯の下の嫌な奴 03「武藤斎は不死者だ。元は妖精憑きか、憑き物筋あたりだろう」
「確証はない、と?」
空気が動く。頷き。肯定。
「そもそも、武藤斎は不死者の中では異端……便宜的に不死者と言っているだけだ」
不死者の定義はこうだ。
まず死というのは、生命活動の完全停止を指す。
そして不死者とは、一度死して後、何らかの理由により、生命活動の停止の後に起こる、肉体の破滅あるいは、精神の消滅を止められた者のことを指す。
そう、止められているだけなのだ。
だから、不死者が斃れると、次に発生するのは消滅である。死ではない。死の段階はすでに過ぎている。
この不死者の要である『止め』を行うことができるのは現在ただ一人。生死の境を守り、死を司る黄泉の主、閻羅王のみである。
閻羅王は、自らの眷属や、眷属とした不死者で持って、黄泉を統べている。
また、それとは別に、「生きた」不死者もいる。彼らは、何からの代償と引き換えに役目を担い、生きているように偽装され、現で活動する。
不死者は、このどちらかに属するものである。
しかし、非常に稀なことだが、この枠から外れた不死者がいる。
それが、今回の武藤斎だ。
「推測するに、武藤斎の意思によるものではなく、『代償』が働いた可能性が高い」
「……言っていたな。憑き物筋的なことを」
「そうか、ならばそうなのだろう」
「――で、情報とやらは何だ」
苛立ちが覗く声。
くく……と低く笑い声が陰を揺らした。
「そう急くな。――不死者は赦しがなければ死なない。それはお前も知っているだろう。だが、それは理に縛られている場合、だ」
「理に縛られていない場合の対処法も存在する、か……そうだろうな」
肉体の破壊行為は何ら意味をなさず、精神の崩壊は逃避にしかならない。
「不死者の本来の所属は『生』にはない。事を片付けるには、われわれでしか取れない方法を取るしかない」
「……で?」
お前、話が回りくどいと一言刺し、続きを促す。
するりと指が2本立った。
「方法は2つ。一つ、何とかして対象をむこうに連れて行く。もう一つ、あちらの手段で持って、対象を抹殺する」
しばらく考え込むような空気が流れた。
「不死者に対する殺傷能力がある得物がある、ということだな?」