銀の魔術師と妖精死譚
5.街灯の下の嫌な奴 02「お前……っ……」
夏葵はそれだけしか言葉が出なかった。
硬直した香葵の手から、スマホが滑り落ちる。
「くく……どうした?」
眼と口元が、より歪な笑みを形作る。
あかりと利も、2人の反応から警戒心を目元に宿らせる。
街灯の下の男は、何がおかしいのか、断続的に低い笑をこぼしている。
「そう怖い顔をするな……くっ……くく」
夏葵はただ険しい顔を向けている。
あかりはいつでも飛びかかれるように、荷物を投げ捨てられる状態で重心を落とした。が、
「……あかり、いい」
夏葵はそれを制した。
嫌で不愉快でどうしようもないが、直接的な害はない。
――この男は、妖音という。
忘れたころに、あるいは突然気が向いたかのように、夏葵のもとを訪れる。
それも必ず夜に、闇の深い夜に。
そしていつも、こうして断続的な低い笑いをこぼし、夏葵の神経を逆なでする。
しかし今まで、妖音が現れたのは、夏葵が一人でいる時だけだ。
気が変わったのか、それとも――
妖音は静かに笑いを収めると、どろりとどこか粘つく声で話し始めた。
「情報が、欲しくはないか。武藤斎の」
「情報?――何をたくらんでいる」
盗み聞いていたのか、辿って見ていたのかは知らないが、すっとぼけられるよりましだ。
だが、この男がただで協力するわけがないのだ。
「別、に? 強いて言うなら、興味だな」
「条件はなんだ」
「愉快な寸劇であることを祈るよ。それに、俺は今回はお使いなわけで」
わかった、と夏葵は低く言った。
「――場所を変えろ。こちらもそれが条件だ」
夏葵がそういうと、妖音はうっそうと目を細めた。再び口元が歪に笑う。
「そうかぁ、知られたくないということか……さては言ってないのか?」
「いいから!」
いったん消えろ、夏葵は声を張り上げ、鞄を投げつけた。
鞄は無為に放物線をたどり、道路に落ちた。