銀の魔術師と妖精死譚
5.街灯の下の嫌な奴 01帰り道、ふとあかりが口を開いた。
「ところで、夏葵にフラれた向こう、一人でやると思う?」
「思えないが、それがどうした」
もう誰が敵だろうと変わらない、という空気の夏葵にあかりと利が目で何か意思疎通している。
「いや、矢島が敵に回ったら嫌だと思ってな」
「あとはレーナ? 戦力としては怖くないけど、なんかね」
「あー……」
矢島が簡単に騙されるほど迂闊だとは思わないが、斎が餌としてぶら下げるのは容易に想像がつく。
山下玲奈は……どうだろう。
矢島はないとは思うが、と夏葵を首を傾げた時、以外にも口を開いたのは香葵だった。
「組まないと思うよ」
意外な擁護に、あかりと利も面食らった顔で立ち止まる。
「矢島って、すごくあかりのこと大切にしてるじゃん。夏葵が『知の探求者』と敵対するってことは、イコールあかりもでしょ?夏葵とは敵対しても、あかりと敵対するとは思えないんだよね」
中立じゃないの?と首を傾げ――香葵は慌てた。
「え、何? 何!?」
「……いや、言い分は、まあ、分かるんだが」
「香葵、矢島と会話するの?」
香葵だけはクラスが違う。だから行動の全体を把握しているわけではないが――頷いた香葵に、3人は驚いた。
「あいつお前とはまともに話すんの!? 夏葵にはあんだけ嫌味皮肉無視で!?」
「ふ、普通に会えば話すし、たまに昼飯……」
「!?」
驚愕の事実。
「……あいつまともな人間関係、築いてたんだな」
「それは言い過ぎ……でもないわね」
利は肯定も否定もしたくなさそうな顔でため息を吐いた。
「まあでも、一応陣営には入れておきたいわよね……」
「その辺はあかりと香葵に任す。俺は会いたくない」
いやまず、話にならない。
「香葵、頼んだ。面倒だから私も相手するの疲れる。引き入れる時に名前使ってもいいから」
「あーうん、わかったー」
香葵はちゃかちゃかとスマートホンを操作する。メールを入れるつもりらしい。
「兄貴たちにも、耳には入れておいた方がいいだろうな。組合は――」
「…………俺がやる」
気は進まないが、知り合いや親にそれとなく伝えておく。事前に芽を摘めず、規模が大きかった時の備えはしなくてはならない。
あともう1箇所と連絡がつけばいいんだが。
夏葵は顎に手をやった。こちらから連絡というのが取れるのか。
そう思い、眉間にしわを寄せ――夏葵は振り返った。
闇が濃く沈み、風が凪ぐ。
街灯の下に、一人の男。
「連絡が、どうした?」
にた、と不愉快で粘つく笑みが、その顔に濃い影を刻んだ。