銀の魔術師と妖精死譚
4.訪問者 04「あ、夏葵おはよー」
「会長、来たなー」
「何で副会長がここにいる?」
翌日、教室でなぜか生徒会の副会長があかりと話していた。
夏葵を顔を見るなり、何か目を輝かせる。
あまり、いい予感はしない。
女子という生態の理解不能ぶりは、生徒会関連だけで夏葵もよく知るはめになったのでなおさら。
副会長は勢い込んで聞いてきたことは、
「会長さ、昨日ファミレスで一緒にいた美人さん、だれ?」
「?……ああ」
武藤斎のこと。
「さああの人はどなた?んでもって汐ちゃんにわびなさい!」
「だから、何で私を巻き込むかな」
あかりが面倒そうに口をはさんだ。
夏葵は打ち合わせで話す必要があるとは思っていたが、詫びる理由などはない。
だが、副会長は――というよりも、人というのは他人の色恋沙汰とみなしたものに首を突っ込むのが好きらしい。
「興味ないの!?彼氏の行動」
「ない」
副会長の意識は、興味ないと即答したあかりに移ったらしい。
これでは朝のうちに言うことは無理、か。
夏葵はのんびり席に着いた。
「『知の探求者』だぁ?」
あかりと利が異口同音にそういった。
放課後の教室である。香葵もいる。
「そ、昨日来たんだよ」
「それはまあ……」
「それで昨日遅かったんだ」
それで、どうだった、と利が促す。
「大まとめに言うと、今起こってる現象は武藤斎が犯人だ」
「え、何、宣戦布告?」
「違う。手ぇ組まないかって誘われた」
それだけで3人は、夏葵が断ったことを知る。
「まあ、『知の探求者』が公認のはぐれだとは言っても」
手を組むのは躊躇する。それも平組合員ならなおさら。
――正確には、成員でないから平組合員ですらないが。
「夏葵が組んだら、組合から袋叩きにあうね。夏葵だけが。――で、自分で言ったの?これをやってるって」
「いや。でもかなり血の匂いが染みついてた。それに……」
「それに?」
夏葵は口をへの字に結び、天井を仰いだ。
勧誘された理由はわかるが、その理由に当たる部分を言ったことはない。
これが矢島相手だったら、夏葵は気にせず言えるのだろう。どんな形かは知らないが、矢島は見ているから。
だが、
「…………」
「夏葵?」
「……持ちかけられた話が、な」
夏葵はそれだけ言って、また口を結ぶ。
踏切りがつかない。
夏葵が何やら思い悩んで口が開けずにいるのは、3人ともわかっているのだろう。
「じゃあさ、『知の探求者』ってどんな奴よ。身体特徴」
接触があったら即確保しかねない雰囲気のあかりがそういった。
「そうだな……茶髪で大学生というか、20代って感じで、ヒール履いてあかりより少し大きいくらい」
「美人?」
「化粧と服と、で、まあこんなもんだなって程度じゃないか?」
それほど美人だとも思わなかった。
「あとは、香水か?少し血の匂いがした」
「それは香水で消してるんじゃないのか」
その可能性はある。香水とはもともとそういうものだ。
「武藤斎は――」
少なくとも、人間に、無差別に害意を持っている。
「――どれだけの人間に害意を及ぼすつもりで動いてるんだろうな」
夏葵のふとした独白。
「――――」
あかりたちの目が、鋭く、剣呑な光を宿した。