銀の魔術師と妖精死譚
4.訪問者 03突然夏葵が席を立った。
「興味もないし、お断りだ」
夏葵は小銭を数え、テーブルに置いた。
斎がテーブルに手を突く。
「待って、理不尽だと思ったことはないの?」
「…………」
夏葵は斎を視界から外し、無言で席を離れた。
ファミレスの外は、冷え切っていた。
足早に家へ向かう。
――馬鹿げている。
夏葵は無感動に、そう思った。
夏葵がそんなことに協力する利もない。
確かに、身に降りかかったことは理不尽かもしれない。が、それを理不尽と思うのは、死んだ人間に対する侮辱でもある。
それに、その理不尽があってこその今の夏葵である。
もちろん、組合等に余計に目を付けられてもいる。
斎のしたことと、夏葵が過去に恐慌を起こしてしたことに共通することもたくさんある。
だが夏葵は、人嫌いの気にはなったが、人を憎悪したことだけはない。
失ったものより、得たものの方が多い。
過ぎたものだと感じるほどに。
「……ただいま」
「おかえりー遅かったねー」
夏葵を振り返った香葵がふと首を傾げた。夏葵は眉をひそめる。
ダイニングは、何やら焦臭かった。
「お前は、また何を犠牲にしたんだ」
無駄にしてないと香葵は言い張る。
それを尻目に、夏葵はふと、斎はこちらの動きをどこまで把握しているのかと首をひねった。