銀の魔術師と妖精死譚
4.訪問者 02妖精憑き・武藤斎は、50余年前に死んだ。
何故死んだのかは、よくわからない。
だが、自分のナカのモノと別れ、消えたことははっきりと覚えている。
自分の憑き物だ。
もともと、自分には何かが「ある」ということは知っていた。周囲から霊感が強いと言われたり、当たるはずのものが僅差でそれいくのを見て、そう思っていた。
それが、消えた。
それだけなら、自分になんら変化はなかった。実際、何も変わることなく生活していた。
自分の異変を知ったのは、それから10年近く経ってからだった。
仕事帰りの夜更け、斎は通り魔にあった。
それで、確かに殺されたはずだった。
どう考えても即死一歩手前。失血死やショック死には確実になるだろうと、素人でもわかる殺されかた。
なのに、明らかに生きていた。
自分でもよくわからないまま混乱した。
混乱したまま過ごすうちに気付いたのは、時間的な異変だった。
老いていない、自分。
写真と比べると分かる、変化に乏しい自分。
よくよく見れば、周囲とも差ができ始めている。
不老不死という言葉が、脳裏によぎった。
夢か、悪い冗談か、あるいはそれが本当にあるべき世界なんじゃないかと思うしかなかった。
しかし、そう思って冷静を保とうとするには混乱が大きすぎた。
自分が死なないというのを、あの手この手で試した。
手近なものはもちろん、体が崩壊するようなことにまで手を出した。そして緩やかに再生することに反吐が出た。
そもそも肉体がなくなっても意識があり、再生するなど。
耐えられなくなって、自分と他が違わないと思いたくて、人を刺したこともある。
自分が通り魔にされたように、腹を差し、そして心臓を突く前に、相手は動かなくなった。
当たり前のように、死んだ。
ニンゲンは、死ぬ。
――なら自分は、何だ。
わからない。絶望した。
絶望してもどうにもならないのに、絶望するしかなかった。
どうしろというのだ。
かなり長い間、廃人になっていた。
立ち直ったのは、絶望が憎悪になり、自分から他者へ逸れたからだ。
自分は、どう考えても悪くなどない。
それなのに、こんな理不尽な目にあっている。
持っていた憎悪を、妬みを、嫉み、を全て外へ向けた。
自分と同じ絶望を、他者にも。
そこからは行動あるのみだった。
妖精憑きは、もともと視えるはずの体質だ。斎は魔術の世界に踏み入れたことが、その契機となった。
科学で限度があるのは、最初から分かっていた。そして、魔術の世界があることも、絶望の合間に耳にした情報で知っていた。
魔術の世界に入ってからの斎は、ずっと世界の在り方を考えていた。
人とつながっている異界とも、神世とも呼べるところがあると知った。
どこからともなく侵食してくる、夢幻のような世界を経験した。
そして、何かと決別をした、死。
世界を考えつくしてからは、、復讐のための構想を練り続けていた。可不可は別として。
そして最近、組合関係者から聞いた、夏葵の噂。
同族と直感して、斎は飛んできたのだ。