銀の魔術師と妖精死譚
3.おまじない 04翌朝、早朝。
「う……るせ……」
机の上で携帯が鳴っている。
まだ日の出前だ。昨日の今日で、夏葵はまだ起きる気はないが。
そもそもこんな時間の着信など。
たっぷり5分は着信が続いた。
着信が切れたことで、夏葵は再び微睡に戻り――隣室から着信音がした。
今度は香葵にだ。寝れない。
「…………だれだ」
連続で掛けてくる相手を頭の中で数える。
父親、母親、組合、あかりと利と、あと数人。
またたっぷり5分鳴り続いて切れた。
夏葵の携帯への着信はない。
そのことに安堵して、夏葵は枕に顔を押し付けた。
が、まさかのところへの着信に飛び起きた。
固定電話だ。
相手はどうやっても夏葵たちを起こすつもりらしい。
起きてしまったものは仕方ない。夏葵は子機を取った。
「……もしもし」
『起きてるじゃない。なんで携帯でなかったのよ』
「……あかりか」
ここまでやるのはあかりくらいだ。
「いったい何だ」
『外』
「外?」
すごいことになってるわよ、とあかりが苦々しい物言いでそう言う。
「ちょっと待て」
少し出るだけなら、コートがあればいいだろう。
「……寒い」
『最低気温0℃らしいけど』
寒いわけだ。
郵便受けから新聞を引っ張りだし、玄関を開けた。
「外ったって、外が何だ」
『夏葵の家って結界張ってあるでしょ。その外』
夏葵はサンダルをひっかけ、玄関から出た。
空にはまだ星がちらついている。
表に人の気配はない。
「で、なん――」
どういうことだ、これは。
極々薄い、血の臭いと呪力。
いつもではありえない、結界の外に身を置いたままの変化なら気づかない異変。
『わかった?私は神社の外だったけど、言われないとわからなかった』
確かに、あかりの家は狭霧神社の結界の外だ。
『これ、どう思う』
「状況が進んだ、としか言いようがないな」
あまりよろしくない方に、と胸中で付け加える。
『登校したら打ち合わせ?』
「ああ、そうだな」
夏葵は玄関に鍵をかけなおした。
「ところであかり、誰に『言われた』んだそれ」
ああ、とあかりはどこか面倒そうに答えた。
『矢島からメール』