銀の魔術師と妖精死譚
3.おまじない 02ぎりぎりのところで走ってきた香葵につかまり、夏葵達はグラウンドを歩いていた。
目的地は去年枯れた桜の切株だ。
どうやらヒトガタがあるらしい。
「よくそんな情報つかんできたな」
「ラグビー部が見つけたらしいんだけど、なんだあれ気味悪いなって」
「あんまり隠れてないってことか」
「夏葵、あった」
切株の裏に回ったあかりが顔を上げた。
枯草に埋もれた根に、釘でヒトガタが打たれている。
「絵の具やマーカーじゃないな」
ヒトガタを触った夏葵がぽつりとつぶやいた。
「まさか血とか?」
「だろうな」
「確かに赤だけど、そこまでやる?」
「いくつかそれらしい物はあった」
情報に漏れがあるのか、それともまた別にあるのか。
「…………」
夏葵はヒトガタから手を放し、息を吐いた。
何か、大事になりそうな予感がする。
「何もなければいいんだけどな」
だが、どこかざわつく。何もないでは済まない気がした。
「夜霧―、ただいまー」
帰宅して虚空にそういうと、どこからともなくぐるぐると喉を鳴らす音がする。
やがて、
『――夏葵、血臭がするぞ』
「え、嘘」
気配が寄ってくる。
手や首の周りで空気が動く。
『やはり血臭だ』
「あー……あれか」
さっきのヒトガタ。まず思い当たるのはそれだ。
「なあ夜霧、日中それとなく血の匂いがしたことはないか? 外で」
『?』
「ああ、別にしなくてもいい。今夜は外に出るぞ」