銀の魔術師と妖精死譚
2.赤い人形 01眠い、寒い。
夏葵は上着のポケットに手を入れた。
さすがは冬の朝というべきか、白光りして目が痛い。
影になっているところに自然と目が行く。
「…………?」
茂みに、赤いもの。紙切れのような、何かの形に切ってあるのか。
「夏葵、どうしたの?」
「いや、なんでもない」
何でもない、はずだが。
なぜか気になる。
どこかで見たことがあったか?
歩きながらしばらく考え、昇降口まで来て振り返った。
――見た。
だが色が違う。
前に見たのは限りなく黒に近かった。
あれは陰陽道や神道で使うヒトガタか。
だとしたら、なぜ似たものを同じ月に2度も見るのか。
何か流行っているのか。だとしたらこのなんとなくざわつくのはなんだ。
「……香葵」
「ん、何?」
「何の情報でもいいから、適当にいろんな噂話とか集めて来い」
「え、やっぱり何かあったの?」
「いや、なんとなくだ」
「ん……なんでもいいの?」
「ああ」
いいけど、と香葵は首を傾げた。
何をする気かと、顔に書いてある。
「また何かあったの?」
「何かあった……ってわけじゃないが」
何かを嗅ぎ付けた、という顔に香葵は納得したらしい。
「夏葵の名前出せば、2年からはかなり集まると思うけど」
馬鹿か、と夏葵はぼやいた。
「なんとなく情報集めて何も起こらなければいいけどな、何か釣れたらどうするんだ」
それが組合がらみの場合、夏葵の名前で集めたとなるとまずいことになる。
あー……、と香葵の目が泳いだ。
「じゃあ適当に話振って、いろんなこと聞いてくるよ」
「ああ、頼んだ」