銀の魔術師と還りし人々

24.夜明け 01
ぎしっ、と朋也の張った結界が軋んだ。
「んー?」
朋也は面倒そうに音源に目を向ける。
参道に次々、影が増える。
「なんだ……?」
「ここ、暗いから」
朋也は幣をさらに地面に突き立てた。
「境内の方は遮るものがないでしょ。空が少しでも明るくなってくると、暗いところに逃げてくるんだ」
「それ、どんどんここが危険になるってことじゃ……」
「姉貴か兄貴のどっちかが突っ込んでくるからさらに危険地帯になるよ」
あかりが来たら、確かに危険かもしれない。
利にも追い返されたし、安全とは言い難い。

声がひどくなる。頭が割れそうだ。耳が痛い。



ユラリタマユラ タマユラユラリ
ユラリタマユラ タマユラユラリ
ユラリタマユラ タマユラユラリ
ユラリタマユラ タマユラユラリ
ユラリタマユラ タマユラユラリ
ユラリタマユラ タマユラユラリ
ユラリタマユラ タマユラユラリ



頭が、割れる――――

「如此気吹放ては 根国底之国に坐す速佐須良比咩と云神 持佐須良比失てむ」

突然の無音に包まれた。
楽になると同時に、急激な変化に眩暈を起こした。
「浅井」
「お前らなぁ」
利はそこで言葉を切ったが、続きがあるような口ぶりだ。
「……ご、ごめん」
「香葵、謝る前に何とか止めてくれよ」
「ごめん……」
謝ってる場合じゃないよ本当に、と利はぼやく。
その利は結界の外にいる。
「ほらほら、お前らも邪魔だからさっさと消えな」
利はそういうと、大量の紙片と塩をバサバサと撒いた。
白いものをまいたのと、空が明るみ始めたことで、影はどんどんその色を薄くしていく。
「ま、こんなもんか」