銀の魔術師と還りし人々

23.山中夜禍 03
子供がいる。
昼だろうか、明るく影が濃い。
だが、なぜか空気は重い。
誰だろう、泣いている。幼い泣き声が聞こえる。
あの荒れ、甲高い声は罵声だろうか。
何か、横を通り過ぎた。
金切り声が飛んでくる。
泣き声、すがる声。
視界が反転し、周りは闇に埋もれる。
空気が、地面が激しく揺れ、木々がざわめく。
どんどんと突き上げる揺れ。

巫女装束の少女がいる。
豊かな髪はボロボロに傷んでいる。
これは、血の匂いか。
そういえば、ひどく場が荒れている。
『この身を……滅ぼせると思うてか』
どこからともなく聞こえる、禍々しい声。
『落ちこぼれごときが』
嘲笑に満ちた声。
少女は答えない。
ただ淡々と台からひときわ大ぶりの刀を取り上げた。
鞘は畳に投げ捨てられた。
あの刀は見たことがない。
不思議な輝きを宿している。
それがひらめいた先には――人がいる。
よく似た――禍々しい、人の形をした――



「うっ…………」
「香葵さん、気が付いた? よかった、夏葵さんも」
「待った、すぐに起きない方がいい」
矢島に覗きこまれている。
頭がガンガンと響く。
「今の…………」
「呪力の影響。香葵はそれから入ったんだろうけど」
それ、は夏葵か。
首を起こすとそばに朋也がいる。
呪力が薄い。
視線を巡らせると、地面に突き立った幣が周りを取り囲んでいる。
夏葵は頭を抱えて呻いている。
「あ、かり……?」
あれはあかりか、とうわごとのように夏葵が顔を上げる。
「あれってどれさ。姉貴はここにいないし」

「あの――子供。あれは、あかりじゃないか」