銀の魔術師と還りし人々

23.山中夜禍 02
かなり躊躇したが、結界内に踏み入れると、あまりの差に吐き気がした。

オオオオ、オオオ、オオオオオオ………………

意識の根幹に働きかけるような虚ろな声。
違う、他にも何か聞こえる。
香葵はそこで初めて歌を聴いた。
抑揚がなく、ひどく暗い。
耳を澄ませていると、頭がぐらぐらした。

「あんまり聞かない方がいいよ」
香葵の体質では意識を持って行かれると矢島に釘を刺された。
夏葵はざくざくと奥へ歩いて行ってしまっている。
「夏葵、待てって……」
あわてて夏葵を追う。
と、夏葵の体がぐらりと傾いだ。

――倒れる
「夏葵っ!?」
さすがに気分がどうのと言っていられない。
香葵はすっとんでいくと、慎重に起こした。
特別具合が悪そうには見えないが――ざっと何か、脳裏に走った。

「香葵、だめだ!!」

矢島が切迫した声を上げる。



『ゆらりたまゆら、たまゆらゆらり、ゆらりたまゆら、たまゆらゆらり、ゆらりたまゆら、たまゆらゆらり――』



何か見える。
赤い、赤い、そして暗い。
あれ、誰――?