銀の魔術師と還りし人々

22.山中呪禍 03
突き上げるような振動が、辺り一帯を襲った。
あちこちで瓶子が倒れ、燈火が消える。
呪力と、呪力を孕んだモノが声を上げる。
本当の中心は裏山だ。だがそこには入ることもできない。
あかりはゆっくりと闇戸を抜いた。
先日念入りに研いだ刃は、わずかな光にも鋭く光る。

オ、オオオ、オオオオオオ………………!!

敵が反応を見せた。
あかりは間合いを計算すると、素早く目の前の一団にとびかかった。
こいつらは最終的に、あかりに攻撃を仕掛けてくる。
この現象に立ち会うこと数回。あかりが確実であると把握したことだ。
物は壊れるし、灯は消されるし、呪力は吹き荒れるが、放っておくと利たちには反応しない。
当然だろう。現象の根幹に当たるところにあかりが関与していたのだから。
泥沼の幼少時代を思い出し、あかりは口を歪めた。
もしあかりを泥沼に入れた張本人に会う機会があったらいうこともすることも決まっている。
復讐ではない。一言の嫌味とリベンジだ。
だが、あの泥沼があってこそ。

――敵意、殺気。

「わたしにその程度を向けたことを後悔しな」
そんな生ぬるいものは10になるまでに、人の一生分を浴びた。
人が一生かかっても浴びるはずのない量の血も、それまでに浴びていた。
あと一歩で死の淵をのぞくところだったこともたくさんある。

生きるというのは、常に命がけなのだ。
何をするにも、常に命がけなのだ。
危険も死も、よく見ればそこらじゅうに転がっている。
そう悟ったのは小学校に入る前。
だからあかりは、すべてをかける。
かける命も持ち合わせていない奴らに負けることなど、あかりにはありえないのだ。
「ほら、もたもたしてるんじゃないわよ」
働きかけられ、眠りから覚まされ、何も知らずに襲い掛かる敵。
こんな手で殺意を向けるなど、

――堕ちたものね。
あかりは小さく呟いた。