銀の魔術師と還りし人々

22.山中呪禍 02
オ、ア、ア、ア………………
ア、ア、ア、ア、ア………………

ゆらり、ゆらりと結界の中を歩く影がある。
「俺らのこと、見えてないのかな」
「多分な」
夏葵は結界間際にしゃがみ込んでそう答えた。
「……やっぱり仕込まれてるか」
「あ、さっきのやつ?」
夏葵はさっき、結界に触り弾かれた。
かなり派手に火花が散った。
威力は、あの、夏葵の手が赤くなり、少しばかり腫れるほど。
ちなみに香葵は平気で手が入った。
「香葵、ちょっとそれ破いてこい」
夏葵が地面にある黒ずんだ紙を指差した。
冗談じゃない。
「夏葵がやればいいだろ……」
「なんで俺がやらなきゃいけないんだ。お前マークされてないんだからお前やれよ。怪我しないだろ」
どうせいるんだから、と夏葵は言う。そのために来たわけじゃない。
「ふーん、今日は入ってくるなって言われたのに、入る気なんだ?」
「やっぱり来たか、お前」
「別に俺は汐ちゃんとかじゃなくて、会長さんの邪魔をしに来たんだけど」
「言ってくれるなお前」
夏葵が口元を歪めた。
矢島は冷たく夏葵を見下ろす。
「とか言って、俺がいなかった場合、その発言はどうなるんだろうな?」
「ふん、そんなの万に一つもないこと」
「ほう……」
根拠はなんだという顔を夏葵がした。
なんというか、どっちもどっちだ。
夏葵の方が若干素直な言い分という程度だ。

ず、ず…………ん

オ、ア、ア、ア、ア………………
ア、ア、ア、ア、ア、ア………………

鳴動も声も、慣れてしまった。
ぴん、と結界の外には緊張が張る。
どちらからともなく、口を開きかけた。