銀の魔術師と還りし人々

21.夕闇の社 03
「対策しておいた方がいいな」
「そうだね。夏葵さんとか夜あたり来るんじゃない? 日付変わってから」
「触媒にできるのもは依代と……」
「髪の毛」
朋也は握ったままの手を利に示した。
2,3本、気づかないように夏葵と矢島から失敬した。
利が袖をごそごそと漁る。幣の比較的大きなものをほどいて、依代を作る。
「ほい」
「ん……」
「これ、どれくらい持つかなあ」
朋也は手元を覗き込みながら首を傾げた。
「何とか朝までだろう」
紙はじりじりと黄ばんでいる。
しばらくすれば端の方から黒ずんでくるはずだ。
境界を越えて踏み入ると、神社の空気は重い。
夏葵は内部呪力の変化を外から見てとったのだろうし、矢島は呪力の流れの異常を見ていたのだろう。
香葵は気づいていなかったようだが、内と外では明るさが全然違う。
内に入ると、ひどく暗い。

それでもまだましな方だ。
間もなく訪れる日没と同時に、狭霧神社は異界となる。
9月下旬、朔日。
「もう帰ってこなくていいのに……姉さん」
「あの人が帰ってくるってわけじゃ、ないさ」
あの人が残していった負の遺産だ。
利は目を伏せてそう言った。
石を重しに、結界のそばに依代を置く。

「俺には同じだよ。呪詛の声が聞こえる」
「そうか……さ、戻ろう」
「……うん」