銀の魔術師と還りし人々

21.夕闇の社 02
神社の入口近くには「立入禁止」の看板があった。
今までこんな状態は見たことがなかった。
夏葵は看板ではなく、敷地の中をにらんでいる。
矢島はどこか虚空に視線を這わせている。
何かあるのかと香葵は首を傾げた。
二人とも看板の横をすり抜けた。
立入禁止は見なかったことにするつもりらしい。
「ちょ、ちょっと2人とも……怒られるの多分俺なんだけど止めてよ」
一応一声かける。
立ち止まるそぶりはないらしく、香葵は看板の前に立ち尽くしていた。
誰か助けてくれと思ったのが伝わったのか、横をすり抜けていく人。
「はーい、お二方ストップ。入るの禁止」
ぐっと襟首をつかみ、少年は全体重で静止をかけた。
「あれ、朋也君?」
袴姿が一瞬利と重なったが、もっと小柄で茶の髪は違う。あかりの弟の朋也だ。
「ちーっす。香葵さん。あんたも止めて止めて」
言葉の容赦のなさはあかりとまったく一緒だ。
「……朋也、離せ」
「俺、姉貴にぶたれたくないからー」
今の姉貴すっごく機嫌悪いんだよーそれでも行くのー殴られるのは確実だよーと、朋也がちゃらける。
「ま、姉貴じゃなくて兄貴呼んだし大丈夫だと思うけどねー」
朋也は利のことをよく兄貴と呼ぶ。
ということは、今に利が下りてきてあの2人はつまみ出されるということか。
「ちなみに兄貴の静止振り切ったら、姉貴と慧兄のこわーいこわーい雷が落ちるよー」
「そうそう。今は雷どころか嵐が襲来するよ」

ざく、と参道の砂利の踏む音。
「お前らが看板を見る気がないことはわかってたけどな」
あかりの意見通りに朋也を配置しておいてよかった、と行動を見透かした言葉を利は平然と言った。
なぜか、今日の利はひどく怖い。

壁がある。

「悪いけど、今日のところは帰ってくんない?」
「この呪力はなんだ。なぜ山が鳴動してる?」
「企業秘密ってことで」
どうやら今回は、取りつく島もないららしい。
「香葵、悪いけどそれ、お持ち帰りよろしく」

笑顔。
あかりがキレた時と同質の笑顔。
めちゃくちゃ怖い。
「あ、ああ……善処するよ」
「ああ、頼んだ」
頼んだ、と言いながら、利と朋也は3人が見えなくなるまで鳥居の下にいた。
振り返った神社の森は、ひどく暗かった。