銀の魔術師と還りし人々

20.プロローグ
9月も終わりのくせに、残暑がぶり返した。
空は快晴。気持ちのいい秋晴れだが、日陰から出たくない。
日陰にいても暑い。
夏葵はハンカチで仰ぎながらちら、と横に視線を投げた。
「暑い…………」
「それは俺の席を占領してまで言わないといけない台詞か?」
「うあああ……」
「聞けよ」
べったりと潰れた香葵に朝から席を奪われ、夏葵は嫌そうに顔をしかめた。
実に暑苦しい光景。
「なんで自分の席でやらない」
「俺のクラスぎりぎり登校多くて話し相手いないんだよ朝」
夏葵は舌打ちをした。
今夏葵がいるのは利の席だ。
浅井利と汐崎あかりは、今日はまだ登校していない。
あの2人はかなり早いのに。遅くて同時くらいだ。
それが、今日はもう数分もしないで予鈴が鳴る。
神社で何かあったのだろうか。
「そろそろ教室戻るか……」
「ああ。今日はもう2度と来なくてもいいぞ」
「そんなぁ」

予鈴が鳴る。
夏葵と香葵は顔を見合わせた。
珍しいこともあるものだ。

その日、あかりと利が登校してくることはなかった。