銀の魔術師と還りし人々

19.エピローグ
たくさんの人とすれ違う。
今日は急に冷えた。寒い。
もうちょっと冷えたらマフラーかな、と思った。

「――お前は何を見た」
すれ違った一人が口を開いた。
足を止める。
「闇の中立ち尽くす子」
「そうか。――くれてやる」
ポケットに何か投げ込まれた。
「香葵に不安の種を吹き込んでみろ。その命食いつぶしてやる」
「そんなに彼は大事? 滅びを身に宿して?」
「俺がどうじゃない。アレはまだ人だ。俺とは違う」
そういうと、どこかへ行った。
「――それは嘘だね、凪夏葵」

ポケットに入れられたものが音を立てた。
カードと何か鎖のようだ。
タロットの11、隠者。
これは何かのペンタクルか。
片面には八芒星、もう片面には文字円に模様が刻まれている。
何かはわからないが――
「うっかり手出ししようものなら、かな」
それをポケットに戻すと、予定通り昇降口に向かった。



気配がする。
下校のピークが過ぎた昇降口では人の気配というのは目立つ。
「……いったい何」
「……どうして向こうに行ったのか、訊いてもいいかな」
「そうね」
少し考え、再び口を開く。
「表面はよく似ている。けどそれをめくってあるものが違った。見ている世界が違った。それでも志向する先が同じに見えたから、かな」
下駄箱の戸を閉じた。
「じゃーね」
小さな呟き。
戸を開ける軋みがそれをかき消した。