銀の魔術師と還りし人々

17.捕獲者 03
「貴様、何を見た!!」

目にも留まらなかった。
夏葵が矢島の胸倉をつかんでアスファルトに押し倒す。
馬乗りになって絞めかからんばかりだ。
押し倒された衝撃に、矢島はきつく顔を歪めた。
「――夏葵!?」
突然すぎて反応できない。
怒りの針が振り切れたのか。
「……けほっ……は、……偽ってるの?」
「黙れっ!!」
「夏葵、止せ!」
首を絞めにかかる夏葵を、利が引きはがしにかかった。
聞こえていないのか。
「黙れ黙れ黙れ黙れっ……!」
香葵と2人がかりで羽交い絞めにして何とか引き離す。
夏葵は肩で息をしていた。
気道を解放された矢島が体を縮めてひどく咳き込む。
「夏葵、落ち着け」
「うるさい……っ」
夏葵の豹変を無表情で見ていたあかりが「殴るわよ」と脅しても、知ったことかと吐き捨てた。
夏葵の双眸には爛々と怒りが燃えている。
「……は、随分と乱暴、だね……会長さんは」
あかりは静かに無表情の顔を矢島に向けた。
「矢島、あんたその『会長』っていうのやめな」
「嫌だ、っていったら?」
あかりの眉間にしわが寄った。
「話が進まないじゃない馬鹿男共め」
悪態をこぼす。
「だって俺には彼がどうだろうと関係ないでしょ? 障るだけ。邪魔な相手を貶めて、都合の悪い情報をばらまいて何が悪いの? 俺は汐ちゃんの隣にそのバケモノがいることが気にくわないだけだし」
「障るのはお互い様だろうが……」
「汐ちゃん。人の皮をかぶったそのバケモノは災厄を振り撒くだけ。そのうち滅びも招くよ」
「黙れ」
「異端は古来から火あぶりっていうのがセオリー。もっとも、それには地獄の炎もぬるいかもね。人じゃないし」
「黙れっ……!!」
「……あいにくわたしは『いつか』っていう時制は信じないクチでね」
「そう、残念……」
矢島は夏葵に冷ややかな視線を注いだ後、香葵を見た。
「香葵くん」
「え……俺?」
「その体質のままじゃ、君もいつかそのバケモノに食われるよ」
「貴っ様……!!」
「じゃあね汐ちゃん、おやすみ」
矢島はくるりと背を向けた。
小路を南に消える。

「…………」