銀の魔術師と還りし人々

fragment4
予習に嫌気がさした。
矢島はテーブルから離れると、ふらりとベランダに出る。
今、家には矢島しかいない。
早朝に帰ってくる親に、何か作っておいた方がいいだろうか。

手すりにもたれる。
平瀬の端にあるこのマンションは、見晴らしだけが売りだ。
昼よりも夜。たいした夜景は望めないが、昼には見えないものがよく見える。
ずっと向こうの闇は狭霧神社だ。
右手に視線を動かすと、またも闇に沈んだ――あれは明桂学院だ。
あそこはいつも歪だ。何かしらの原因があるのだろう。
さらに視線を動かすと、違和感の塊に当たる。
なんとなくだが、矢島はあれを凪双子だと確信していた。

障るな。
気に障る。

矢島はゆっくりと平瀬を一望する。
久しぶりに、夜の散歩でもしようか。
そう思い、ならどこに行こうかと思う。

「――――ん?」

何か……何だ?
目を凝らした。
よく見えない。が、

「何か、いる?」