銀の魔術師と還りし人々
13.帰りし少年 02持ち込んだ本も読み終え、夏葵は机に落書きを始めた。
退屈だ。
教壇では数学教師が必死に説明している。
夏葵は意識からそれを追い出し、落書きと思考に没頭する。
つらつらと取り留めもなく思考するうちに矢島を思い出す。
亜麻色の髪とは珍しい。
机の落書きはいつしか羊になり、ぐさぐさと剣をさしていく。
黒々と血だまりを描き、そのそばに0点のテストで死んでいる利も描く。
口元を歪めて笑っている夏葵を不審げに利が視線を寄越す。
机の落書きを覗いたらしくその顔が慄く。
『なんだよその0点って!』
横から伸びてきた手が筆談を残していく。
『お前だよ。理科』
とんとんと死体を示し、夏葵は笑う。
『すごいものできてるじゃない』
肩越しに覗いたらしいあかりが、ぽいとノートの切れ端を投げ込んでくる。
あかりも口元を歪めている。見ているのはやはり0点だ。
そんなこんなで机がそろそろ黒くなってきた。
消しゴムをかける時、羊を一瞬睨み、一気にかき消した。
さしたることでもないのに不愉快になるのは不利益だ。
大量の消しかすを生産しながら、夏葵は自分にそう言い聞かせた。
それでもささくれ立った気持ちが落ち着くはずがなかった。