銀の魔術師と還りし人々

13.帰りし少年 01
採点は着々と進んでいるらしく、早いところは昨日の今日で返却された。
たとえば、生物とか。

利が死んでいる。
「あれに線香上げね?」
「うち神社なんだけど」
「あーなら塩か?」
あかりと夏葵は毎度のことながら、利を見て好き放題に言っている。
あかりの席を占領している香葵も似たようなものだ。
仕方ないとばかりにあかりは夏葵の席で弁当を広げる。
「そういえば、今日は1年が結構うるさいんだけど」
この休み明けによくあれだけ騒げるものね、とあかりは卵焼きに箸を突き立てた。
遠かったざわめきが近くなる。
もそもそと活動を再開した2人も寄ってくる。
廊下で歓声が上がった。
「何だ……うるさいな」
利が嫌々視線を上げる。
ざわめきが教室にまで波及する。
その先、出入り口からひょこりと頭が覗いた。

亜麻色のくせ毛に眼鏡。
「やっほー、汐ちゃん、浅井。久しぶりー」
あかりと利は数瞬瞬いた。
「矢島!?」



矢島と呼ばれた少年はうれしそうに笑い、教室に入ってきた。
ふわふわとしたくせ毛、メガネの奥では目が笑い、泣き黒子に目が行った。
「帰ってきたのか。クラスはどうなった」
「1-A。やっぱりブランクがね……理社とか、あと古典がさっぱりで」
「なるほどね。オーストラリアはどうだった?」
「うん、気持ちよかったよ」
はい、これ、お土産ね、と矢島は袋を差し出した。
やんややんやと人が集まる。

「…………?」
「香葵、マヌケ面」
首をかしげる香葵に、夏葵はそう指摘した。
「誰?」
「知らん」
香葵はしばらく首をかしげて、食事を再開した。
夏葵は頬杖をつき、ぼんやりとその様子を眺める。
経過すること5分、ぎゃいぎゃいやっていたあかりが気が付いた。
「あ、そっか。知らないもんね」
矢島、ちょっと面貸せとそれはどうかな発言で矢島を捕まえた。
「矢島悠治。あんたたち入ってくる1ヶ月かな? 前に留学に行ったの」
「へえ……」
「うん。生徒会長さんだよね?」
みんなが教えてくれたんだ、と矢島はふわふわとした笑顔でそう言った。
「夏葵と香葵。矢島と入れ違い」
「よろしくー」
香葵は「よろしく! 俺、香葵ね」とわいわいやっている。
夏葵は顔を向けられたときに生返事を下だけだ。
配っているのは菓子らしい。
「はい、会長さんも」
「……ああ」
夏葵は受け取り、視線がよそへ向いた瞬間目を眇めた。
どういう訳か、やけに気に障る。
「夏葵――?」
「……いや、なんでもない」