銀の魔術師と還りし人々
12.プロローグ八月下旬。
早いところでは夏休みが明けた。
残暑の朝に、生徒は一様にけだるげに登校してくる。
一部のテンション異常者は周囲に迷惑の目をもって見られていた。
「夏葵、これ、これさ、どうやって考えるの!?」
「今更……アホかお前」
「もう無理……死んだ」
「ああそう。カビ生えそうだから近寄らないで」
そんな二人組二組が昇降口で鉢合わせし、
「香葵、あんた何やってんの!?馬鹿じゃないの!?」
「浅井、その顔なんだ。化粧なしでゾンビ顔してるぞ」
盛大に吹き出した。
今更のように試験対策で悲鳴を上げている凪香葵を見た汐崎あかりは笑い転げる。
何やらくまをつくっている浅井利の顔に、凪夏葵は失笑した。
「あれか、生物」
利は弱くうなずき、がっくりと肩を落とす。
「あと2ページなのに」
その2ページが終わらない。
香葵はあかりにいじられて半泣きだ。
適当に終わらせたのはいいものの、頭には入っていない。
利は徹夜に近い状態で真面目に頑張ったのだろう。
「かわいそうに。今回も結果が楽しみすぎるわ」
「まったくだ」
校内きっての成績優良問題児は非情な言葉と二人を残して昇降口に消えた。
「言っておくとな、1%くらいはお前らのせいだぞ……」
昼休み、利が死んだ目で呻いた。
「いや、だから労働面では協力しただろ」
夏葵は実に涼しげである。
「俺の方も忙しくはあったんだぞ?」
この夏休み、夏葵と香葵に加えてあかりは、死んだと推測されていた小田原和樹による事件に再度巻き込まれた。
利は一緒にいなかったにも関わらず、巻き込まれ、いい迷惑をした。
言っているのはそのことだ。
「いやー、でもあんなにいっぱいの異形を見たのは初めてだったわ」
「俺も」
「……お前ら俺の言い分聞く気なんてさらさらないだろ」