銀の魔術師と還りし人々

10.ケガレの跡に再生は来る 04
「あんたたちも大概分からず屋なのね」

キーが高く耳に残る声。
「だから閉鎖的ではダメって言ったのよ。森が死にかけてることに誰も気づきやしない」
池を挟んで、一人の少女が立っている。
「ね、気分はどう? 里と森を救ってもらって。――馬っ鹿馬鹿しっくて愛想も尽きるわ」
飛翼が「姉様……戻って」と呟く。
なるほど。あれが飛翼の姉か。
夏葵は未だ痺れの残る左手で結晶を握った。
どす黒く、光の反射で赤にも見えるそれ。何とか間に合った。
まだ頭が痛い。軽度の呪力中毒だ。
夏葵は床にしゃがみ込んだ。足元が安定しない。
その間も飛翼の姉は冷たく喋る。
「彼の術の後に空気が変わったこと、わからないの。いままでどれだけ澱んでたかわからないの? その男とやらが来てから病人が増えたことは偶然?」
族長だって、と彼女は飛翼に支えられている老体を一瞥した。
「どうせ奥ノ宮に籠って四六時中当てられてたんでしょ。具合悪くなって当然じゃない」
「だが!!」
「そもそも腐臭が最初からしたんでしょ? あんたたちの鼻は飾り? 族長も耄碌したのね」
その言葉に容赦はない。
「他の異端を責めたいのなら、まず内部粛清を行うことね。いったいどれだけ残るかしら」
棘のある言葉。
「飛翼に吹っかけて正解だったわ。森の大老に掛け合うことができたもの」
この里の呪力はしばらく大老の監視下に置かれることになったわ、と彼女は告げた。
その言葉に武人衆がざわつく。
「余所者が聞いたらイカレてるってことよ。わかった? ――わかったならその人たちを解放なさい。数が少ないようだけど、星翔や笙乾はどうしたの」
「星翔は……異端者の……。笙乾は飛翼を追って――」
武人衆の一人が迫力に負けたかのようにそう吐いた。

これでやっと終わる。夏葵は安堵の息を吐いた。