銀の魔術師と還りし人々
9.妄執 01黒い髪に、仰々しい衣装をまとった――飛翼によると、男。
ぴくりとも動かない。
が、あかりが再び剣先を持ち上げた。
表情が険しい。
「…………小田原?」
夏葵は驚いて見返した。夏葵では判別がつかない。
男がぐらりと動いた。
不穏気に火が揺らめく。有り得ない揺らめき方をしている。
「――鴉」
声というよりも、それは音だ。人を不安にさせざわつかせる不協和音。
「――殺」
「お前、」
「鴉鴉殺鴉殺殺殺殺鴉殺鴉殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺――――」
ぶわ、と死の呪力が吹き上がる。
とっさに飛翼の襟首をひっつかみ、満月の結界の中に退避した。
あかりが苦い顔をする。
先に切り落とした薄布が、切り口からぐずぐずに腐り落ちていく。
あれに当たって平気でいられる自信はない。
結界から下半身がはみ出ている族長はけいれんを起こしている。こうなるということだ。
「どう考えても」
「……死んでるぞ」
妄執に憑かれてまで、なぜ俺を付け狙う。