銀の魔術師と還りし人々
7.烏の棲家 03思わず息を詰める。
喉元まで吐き気がせりあがってくる。
すごい臭気だ。できることなら呼吸をしたくない。
入口すぐのところに座していた老体がぐらりと傾く。
「っ族長!!」
飛翼が駆け寄り助け起こす。意識はない。
具合も悪くなって当然だ。おそらくこの呪力に負けたのだろう。
満月は棟の外で食い止めるつもりか、入ってくる様子はない。
腐の、死の呪力。
まともな命あるものが長時間接するものではない。
あかりは薄布で隠された奥をにらんでいる。
――いる。
数枚重なっているのか、人影だけがぼんやりとある。
影が揺らめくのはろうそくか、燭台か。
身動きしているとは思えない。
気づいていないのか、どうでもいいのか。
動いたような反応すら未だない。
一瞬視線を交わすと、あかりはそれを断ち切った。