銀の魔術師と還りし人々
7.烏の棲家 01「うー…………」
あかりが嫌そうに顔を風下に向けている。
正確には、今飛んできた方向に。
森ははるか下方にある。
「いくら夏って言ってもこの時間にこの場所だと寒いな」
「そうねー」
「目にゴミぃ……」
あかりは飛翔開始3分かそこらで目にゴミが入り、進行方向を見ることをあきらめていた。
「そろそろ見えるはずです」
飛翼が前を見据えたままそういった。
「……そうだな」
もう20分は超えただろう。
ふと、視界に違和感を感じる。
徐々に変化しているが、森がおかしい。
本来生気に満ちているはずの森が、木々が、死気を漂わせている。
夏葵は眉をひそめた。
あのままでは、里近隣の森が死ぬ。
「誰も気づかなかったんだろうな」
「里の同族は、あまり里の外に出ないんです。出たとしてもそう遠くには……」
「……人のこと笑えないわ」
満月がため息を吐いた。
「…………。奥ノ宮に直接行くのは危険ですので、人気がなく、できるだけ近くに下降します」
「……ああ」
高度が下がり始める。
夏葵は森を注視した。
みずみずしさがない。
どことなくよどんだ空気。
一体何が住み着いた。
夏葵が低くそう吐くと、あかりが鼻を鳴らした。
人のいないところ、ということで畑のはずれに降り立つ。
最後はかなりの低空飛行で、呪力に当てられた。胸が悪い。
「ここからならそう遠くはないはずですが……」
降り立つ前にちらりと確認したところ、かなりの数が警護している。
「出てくる前はこんなにいなかったのに……」
飛翼がうつむき唇をかむ。
「いくら居たとしても、最終的には強行突破になるんだから同じ。ただ面倒が増えるだけ」
あかりは様子を見たときに割り切ったようだ。
駆り出されている武人衆が完全に武装しているのだ。
鞘で殴った程度で死ぬ心配はなさそうだ、などとほざいている。
満月はとりあえず状況次第だ。
一応出る前に雲隠れの術を施してきたが、怪異相手にどこまで通じるかは疑問である。最終的には解かなければならないこともある。
未だかつて対魔戦中に雲隠れをかけていたことがないため、夏葵もよくわからない。
ある程度の力があれば見破られるので、相手の力量次第か。
「行くか」
「……こちらです」
飛翼は死角を選んで歩き始めた。