銀の魔術師と還りし人々
6.2翼の雛 03夏葵が死に態で転がっている。
行きはよいよい帰りはこわい、だったらしい。飛翼のせいで。
話を聞いているのは主に白木、ついでにあかり。場にいるだけなのは夏葵と香葵である。
あかりはあっさり親が八咫鴉であることを飲み込んだ。あっそう、の一言で終わった。
飛翼はかしこまって正座である。
利に言わせるとやかましくて失礼なガキだというが、対人と対八咫鴉では態度が変わるらしい。
「それで、詳しい話を聞かせてもらえるんだよね?」
白木がお茶を出しながらおっとりと訊く。
「はい。まず、我が里は入日ノ山に在ります……
入日ノ山ノ里は、ここから森に入って飛翔すること30分ほどの浅いところにあるという。
方針転換するきっかけとなる事件が起きたのは1ヶ月ほど前のことだ。
烏天狗以外出入りすることのない里に別の者が現れた。
慣れない風体の男。
不審人物として、発見報告からすぐに、里の武人衆が取り囲んだ。
男はどこを吹く風だったという。
その上、開口一番にこう言ったという。
「お前たちは風の者として異端を許していいのか」
――異端を許して。
魔術師がそうであるように、異形もまた排他的な生き物だ。異端ははじかれることが多い。
それなのに、異端を許していいのか、と。
武人衆にとっては爆弾に近かったらしい。
その上こう畳みかけたのだ。
「他の気を血に持つ異端を許していいのか。崇めていいのか」
それだけで、一大騒ぎになった。
烏天狗は従属していた時期もあり、種としては八咫鴉を崇めている。
その血に、異端など。
実は混血がいるのは有名な話ではある。
しかし、許していいのかとよそ者に吹っかけられた場合、話は別である。
「よくなかろう。ましてや血を汚すものなど居ていいわけがない。――違うか」
それだけで、その男は入日ノ山ノ里に入ってしまった。