銀の魔術師と還りし人々

6.2翼の雛 02
「おかえりー」
慧はにこにこと笑いながら食卓を片付けているが、飛翼は絶叫状態だった。
起きだしたらしい花衣と紅衣が飛翼に絡み、遊べとかまえとやっている。
子供のエネルギーはすごいなと感心する。あの飛翼がおもちゃである。
「花、紅、少し静かに」
「はぁい」
「飛翼、お前なんで来た。物見遊山に来たわけじゃないだろう」
飛翼ははっとしたように口を引き結んだ。
「言わないと、たとえ知ってても俺は紹介しないからな」
飛翼は少し瞬くと口を開いた。
「……警告と協力の要請――いや、救けを求めに」



『警告と救けだ?』
「らしい。その飛翼ってのがいる一族が八咫鴉に敵対する方針に転換して、襲撃するとか」
どさりという音の後にため息。
「どうした」
『……一晩遅い』
「てことは」
『来た。烏天狗だ。縁側と屋根の一部破壊。障子ふすまもいくつか木端微塵。得体のしれない呪力の影響も出てる』
「あーあ。それは言っておく。確かに烏天狗なんだな?」
『ああ。羽根がある。母さんが保証した。それで、救いっていうのは何だ』
「よくわからないんだけど要約すると、棲んでる所に来た奴がいて、それから方針が変わった、と」
『里を救ってくれってか?』
面倒くさそうな声。
「せめてそういう状況を知ってほしくて、だと」
『ならそいつの里は……聞いてもわからないしな』
「それから、話しぶりだと夏葵が狙いだったかもしれない」
『えー……?』
夏葵が嫌そうな顔をしているのが想像できる。
「最初は平瀬に突撃するつもりだったらしいぞ。詳しいことは知らんが」
『あ"――……』
すさまじい呻き声。
何で俺、と言っているようだ。
つい先月まで、ある男に狙われていた。片付けたと思ったらこれである。確かに気の毒だ。
『……方針転換したって、何でだ』
「族長? とやらが信じたとか、影響をどうのって」
『よくわからない』
「悪い。俺もよくわからない。俺らにははっきり言いたくないっていう感じで」
何ならくれてやるから引き取ってくれ、と利は夏葵に言った。
ちなみに先ほど電話を入れようと思った矢先に、飛翼とちび2人が騒いでコップを割り、それ以来かなり静かになった。
『そうだな、道案内も必要――ん? 何?』
声が遠くなる。向こうで何か話しているようだ。
『――わかった。刀だな? 刀用意してくれだと。あかりが』
「……いつものでいいのか?」
『多分な』
「来るのは夏葵か?」
『ん、そう。俺と親父――朝一? 明日? だと。着くのは昼前くらいだと思う』
それまで子守よろしく、と夏葵はけろりと言った。
後でそっちのこときちんと聞かせてもらうからな。