銀の魔術師と還りし人々

6.2翼の雛 01
部屋は花衣と紅衣がベッドで昼寝をしていたので、慧の部屋を失敬する。
携帯で夏葵の番号を呼び出し、コールをかける。
長い着信音。
出ないか、そう思ったが、留守電に切り替わる前につながった。
『……何の用だ』
声が異様にくたびれている。
「なんか、……お疲れだな」
『あーはいはい。お疲れですよ』
かなり投げやりな返事。
一体何があったのか興味はわいたものの、今はその追求より聞かないといけないことがある。
「訊きたいことがあるんだ」
『後にしてくれ』
「待て、それは困る」
夏葵が舌打ちした。
『理科以外なら答えてやる。だから率直に言え』
何と聞けばいいのか迷っていたところだったので、利は指示通り率直に訊くことにした。
「お前って八咫鴉なの?」
携帯の向こうで沈黙が下りた。
やがて、
『……何処で知った』
トーンが落ちた声。
返事はイエスだが、ここで切ったら呪詛をかけられるような気がした。

「え……っと」
電話越しだが、殺気を感じる。
けっこう怖い。
「さっき、参道に烏が落ちてきて」
『ああ』
相槌は威嚇さながらだ。背に冷や汗が伝う。
「それが喋って化けて人になって」
『頭でも打ったか?』
「それで、そいつが八咫鴉がどうのって」
『ほう』
「話を聞いてたらお前っていうか……親御さんが特徴に……」
『ふうん』
声の冷たさは少しばかり和らいだが、未だ怖い。
『……で?』
「居るはずだから会わせろっていうような感じ」
『何でだ?』
「…………すまん聞いてない」
『…………』

このタイミングの沈黙はかなり居心地が悪い。
「……聞いてくる」
怖くて返事を聞かずに切った。