銀の魔術師と還りし人々

5.空から烏が落ちてきた 03
「しっかし何だって化け物がうちの神社にあっさり侵入してくるかなぁ」
「…………」
「見つかったのが俺ってだけマシだろうけど」
「…………」
「花と紅だったらお前今頃おもちゃだな」
そいつは無言で茶碗を突き出した。
「……おかわり」
「…………へいへい」
顔に米粒がついているのに気が付いている様子はない。
出したのは焼き魚の切れ端とか半端に残った煮物とか、残り物ばかりだ。
それでも文句の一つも言わずに咀嚼している様子から相当な空腹だったらしい。
エネルギー補填したらまたうるさくなるかな、と今からげんなりもする。
利はかえって空腹がどこかに行ってしまったというのに。
「夏葵が来てこの方、化け物ばっかりじゃねーか」
「あ、」
きょろきょろと視線を巡らせたかと思うと、すんすんと鼻を動かした。
利は半眼になって頬杖をつく。
「この辺りには八咫鴉のご子息がいらっしゃったと思ったのだが、彼の人はいづこにいらっしゃるか」
「……人にメシ食わせてもらっておいて随分な態度だな鳥」
利の額に青筋が走った。やっぱり食わせるんじゃなかった。そのまま窓から捨てるべきだった。
対して、そいつもいきり立つ。
「鳥とは何ぞ!!」
「なら化け物」
「何を!!」
「化けたじゃないかお前」
「む……」
茶碗を抱えて仏頂面を見せる。
食べ物を投げない程度には育ちがいいらしい。
利は鼻を鳴らした。
ばたばたと足音がしたかと思うと、玄関が開く音がする。誰か帰宅したらしい。
「ただいまー。利おかえ……友達?」
勢いよく帰宅、居間に入ってきた慧は首をかしげた。

違う、という2人の返事は被ったこともあって異様に殺気立った。