銀の魔術師と還りし人々

5.空から烏が落ちてきた 01
同刻、狭霧神社。

「……俺だけ置いて行きやがって」
浅井利はいとこのあかりを恨んだ。
今日で理科の補習は終わりだ。
たった2日で置いて行かれるのは少しばかり腹が立つ。
帰ってきたら祭りでこき使ってやると心に誓う。
どうせだから香葵あたりも手伝いに駆り出す。夏葵は無理だろうから。
そんなことを計算しながら参道の砂利を踏む。
慣れているとそう思わないが、参道は意外と長い。
それも半ばまで来て、――視界の端に異物を認知。

上から――ぼとりと黒い物体が落下。

「…………」
烏のようだ。
狙ったかのように、利の前方3メートル先に転がっている。
落下、墜落……どっちも意味は同じか。
利はそう思い近づいた。
参道に転がしておくわけにはいかない。脇の林や草むらの中に放っぽり出しておけば自然に還るので、とりあえず手を伸ばした。
だが、つかむ前に利の顔が引きつった。

「うう……ここ、は……」

喋った?
理科の補習で頭が狂ったか、耳が狂ったかと疑う。それとも空耳か。
が、目の前のそれは容赦なかった。
「はっ!! キサマ、何奴……ぎゃっ!!」
本当に喋った。
利は自分が狂ってないことで気を取り直し、つかんで目の高さに持ち上げた。
どこからどう見ても烏である。
「キサマ、我を何と心得……ぐえっ」
再び喋りはじめると同時にしこたま暴れられ、利は思わずそれを取り落とした。
打ち所でも悪かったか、白目を剥いて気絶している。
上から落ちてきて生きてた位なので死んではいないと踏み、利は再びそれを持った。

――とりあえず、持って帰るか、これ。