銀の魔術師と還りし人々

4.黒羽根 02
「あれって烏天狗だったの?」
翌朝、寝坊気味の朝食で羽月はやってくれた。

空気が白ける。
異常は朝になってひどくなっていた。
破壊されたところはぼろぼろと腐り始めていた。
その下からは腐葉土独特の腐臭がする。
白木が袖から取り出した羽根を羽月に見せる。
「あー確かに烏天狗……かな?」
「確かなのか確かじゃないのかはっきりしてくれ」
「かれこれしばらく……っていうかずっと見てないし」
そういって羽月は卵焼きを頬張った。
「なっちゃんさ、ちょっとそれで占ってよ」
「道具ない」
あったとしてもないと答えていただろうが。
「けんちゃん、できる?」
「いやー占い苦手なんだよね」
満月が「使えない奴」と悪態をついた。
「もし烏天狗だったとしても、あいつらってあちこちにいるでしょ? それがわからないとどうしようもないわ。ましてや理由がわからないんだもの」
「母上、烏天狗と何かあった……なんてことに覚えは?」
「んー……」
羽月は眉間にしわを寄せると味噌汁をすすった。
空になるまで考え、空になるとおかわりを要求した。
「ないと思う。基本的にお互い不干渉だし。あるとしたら……あれかなぁ。それだったらもっと前に仕掛けてくると思うんだよね。もう今更過ぎて」
「どれくらい前?」
「ええと……満月が生まれる前。年月はわからない」
歳月がよくわからないが、相当前だとは分かった。そもそも夏葵は姉兄の年齢を知らなかったりする。
「姉さんいくつだ?」
「聞かないで」
「兄さんいくつだ?」
「都が東に移ってくるしばらく前くらい」
まったく把握できないが、江戸か鎌倉ということだけはわかった。
いくつこいつら。
香葵は笑っているが目が笑っていない。完全に遠い目をしている。
「烏天狗は普通に代替わりしてるし、ないと思うんだけどなあ」