銀の魔術師と還りし人々

3.夜襲 02
爆音。
突風に家が揺れた。
翼が風を打つ音。
上空から降り注いでくる殺気。

「……どっから湧いてきた」
「僕は戦いとか嫌なんだけどな……」
夏葵は悪態を、白木はぼやきを漏らし、ため息を吐いた。
ほぼ同時に、ばーんと障子戸かふすまを開け放つ音。
「縁側壊したのはどこの誰よ――!!」
満月だ。その叫びで、爆音は満月の部屋に近い縁側が破壊された音と判明した。
また突風。
今度は風が吹きあがる。
満月が上空へ飛び出したようだ。
風が荒れ狂い、家が震える。
満月は八咫鴉の純血種だ。それも、今は圧倒的少数の古い血の。
それだけに風と親和性が高い。むしろ風そのものというほど自在に操る。
ただ、攻撃は限りなく八つ当たりに近い。蹴り飛ばしたり吹っ飛ばしたり。
そのため、襲撃者の敵意は今のところ満月に向いている。
それはありがたいことだが、このままでは家が大破してしまう。敵によってではなく、満月の攻撃によって。
山は慣れない外敵に緊張している。
白木は中庭に降りた。
ばたばたと近づいてくる足音2つは母と義父だろう。

――同胞よ、声は届くか。
応えがあった。
「呼声に応えし同朋よ。守護の翳し手を借りたい」
空気が濃くなる。山と森の気配が温かみを増す。
部屋に1度引っ込んだ夏葵は、黒い外套を手に戻ってきた。
参戦する気だろうか。
「人が疲れてる日を狙い澄ましたかのように……」
起こされたせいで、やはり機嫌が悪いようだ。
「怪我はないようにね」
よくわからない生返事をすると、夏葵は表に出た。
白木も追って境のあたりに立つ。
母もいつしか参戦していたらしい。義父はここからでは見えない。
夏葵は不穏極まりない空気をまき散らしながら、ざらざらと掌いっぱいに金属片を用意している。
「戦の父、禍を引き起こすもの、汝が手に有りしは氷の弓なり。されば我が敵を滅ぼせ」
それは呪詛か何かかという地を這う声に反応したか、夏葵の攻撃はやたら凶暴化している。
ばりばりと音を立てて空気が凍る。
敵方はそれに恐れおののいたのか遠巻きに取り囲む。
そのうちの数人の視線が余所へ向いた。
嫌な予感に突き動かされ振り返ると、縁側に――あかり。

風が動いた。