銀の魔術師と還りし人々
3.夜襲 01不意に目が覚めた。
――まだ未明か。
だが、何か変だ。
白木はゆっくりと上体を起こした。
草木も眠る丑三つ時――すべての草木がそうというわけではないが、あちこちで眠りから覚めた同胞たちがざわめいている。
床板に手を這わせると、何かが来ると警告をされた。
白木は木霊族との半血だ。山や木々との親和性が高い。
ゆえに、こうして木々が広く情報をもたらす。
だが、どこからという情報はない。
白木は音もなく廊下に出た。縁側と違って壁や障子で外から見えない。
白木の部屋は森が迫り、中庭が近い。
「どうしたの?」
『ソラガ……カゼガ……』
「風……?」
確かにいつもよりざわついているかもしれないが。
満月に聞いたほうがいいかもしれない。それともここからなら夏葵の方が近いか。
そう思い庭木から目を上げると、斜向かいの障子が開いた。
夏葵だ。
夏葵が起きだしてきた、ということは、これは確実に。
夏葵は白木を斜に見ると、視線を上に向けた。
口をへの字に結んでいるのは夢でも見たか、目が覚めて機嫌が悪いか。
白木も夏葵につられて夜空を見上げた。
きれいに晴れ、星が明滅している。
「…………」
「…………」
その星が――不自然に遮られた。
「コウモリ?」
「――じゃ、ない」