銀の魔術師と還りし人々

2.帰省戦 02
結局、夏葵も香葵も、二人の姉兄が何であるかは一言も告げなかった。
そして現在、追いかけっこが再開されている。
あかりは縁側で白木と無言でお茶をすすっている。
夏葵と香葵はこれで俊足に育ったのか。
親が出てこない疑問があるが、誰も触れなければあかりも気にしていない。
時々驚異的な速度で走っていく3人さえ気にしなければ平和だ。
そこに一瞬、別のものが混じった――気がした。
断末魔のごとき悲鳴が左手であがる。
白木が首をかしげた。
「……母様?」
その呟きの後、満月が右から左へと疾走していく。
さらなる絶叫が上がる。
「おやおや、ずいぶんにぎやかだねえ」
「健一さん、お久しぶりです」
何やら視界の外では阿鼻叫喚の地獄絵図のようだが、和やかに顔を合わせている。
「白木君、花火買ってきたから今夜どうだい?」
「いいですねえ」
ぎゃー誰か白木助けてーと香葵が叫んだ。



追いかけっこは夕食時まで続いた。
食事その他は全部白木がやってくれた。
逃げるのに必死な夏葵と香葵は手伝いなどするわけもなく、あかりが手伝うにしても迷子になるので座っているように言われた。
鼻歌を歌いそうな笑顔の白木はずっと無口だ。
満月は残像が引く速度で走るせいで話すどころかまともに見てもいていない。
夏葵の母は、今日はまだ顔も合わせていない。確か羽月といったか。
あかりはそんなことを思いながら畳の上をごろごろと転がった。
そういえば蚊がいないなーと、1本だけ焚かれている蚊取り線香を見やった。