銀の魔術師と還りし人々
2.帰省戦 01林を抜けると、随分と立派な日本家屋があった。
塀はないが、林がそのまま庭の続きになっている雰囲気だ。
雨戸もガラス戸もない。開放的だ。というか目につくものがない。
そこに、香葵と夏葵が恐る恐るおとないを入れる。
「ただいまー……」
数拍待つと、一体どこからか足音を立てて人影が現れた。
それを見て、夏葵と香葵が逃げ腰になる。いつでもスタートダッシュの準備はできているという状態だ。
「夏葵香葵――――!!」
叫ぶが早いか、その人は飛翔距離数メートルの先に、夏葵と香葵をとらえた。
ぐぇ……という呻き。
どさ、と3人が地面に転がる。
「んっふー、久しぶりー! なんで逃げ腰になんのよー……何よおっさん、いたの?」
笑顔から一転、じろっと横目で健一を見る。
「居たよ? それはそうと潰されて死んじゃうから二人とも」
「ああ!?」
喧嘩腰になるや否や夏葵と香葵を放置して健一にすごむと、二人はそそくさと逃げ出す。
それを見咎めた彼女がまた二人を追いかけだす。
猛烈な追いかけっこ。
あかりは唖然とそれを眺めた。
…………何だこれは。
かなり遅れてそう思うが早いか、死角から吹っ飛ばされた。
今度はあかりが呻く番だった。
「誰!? あなた誰?」
好奇心で目が輝いている。
衝撃に息を吐いて、上にのしかかられているあかりは返事どころではない。つまるところむせていた。
「待て待て待て」
逃げ回っていた夏葵もさすがに戻ってきた。
そして再開される追いかけっこ。
ひとしきりむせたあかりは起き上がりながら状況説明がほしくなった。
追いかけっこは、奥から青年が顔を出したことで突然終息した。
正確には、夏葵と香葵が青年を盾にすることで休戦となったというべきだろうが。
「これは白木兄さん……と、満月姉さん」
「ちょっと、あたしのほうが先よ!!」
「ぎゃー、茶がこぼれる!」
座った端から香葵が悲鳴を上げた。
現在はあかり、夏葵、白木、満月、香葵の順で座っている。
香葵が悲鳴を上げるのは、満月が手を出すと長い袖が引っかかるせいだ。
薄い金の長髪までは良しとしても、あかりよりも小さくて年上なせいか年齢が計れない。もしかしたら計らないほうがいいのかもしれない。
白木は暗緑色のくせ毛に、黒あざのある青年で、おそらく夏葵と背格好は変わらないとあかりは踏んだ。こちらも年齢不詳だが、あかりは放り出した。
こんな山に住んでいる時点で計るだけ無駄だ、と。
あかりは紹介されながら、そういえば健一がいないなと思った。