銀の魔術師と還りし人々
1.プロローグ「いいのかい? 利君置いてきて」
「いーのいーの」
「香葵が引っかかってるならまだしも、理科は別個だしねー。補習試験あるからまず簡単に終わらないし」
凪健一がルームミラー越しに視線を送ってきたが、汐崎あかりと凪夏葵はひらひらと手を振った。
実に非情である。
助手席の香葵が、首をすくめて「利ってかわいそう」と呟いた。
「香葵、人のこと言ってる場合か?」
「うう……」
「それはともかく、わたしが行ってもいいの?」
「いいのいいの。……いざという時の囮が増えれば」
「何? 何が増えるって?」
夏葵と香葵がそっぽを向いた。
どうにも怪しい。囮が何とかと。
健一はくすくすと笑っている。
「もう少しで車降りるからね。出してるものあったらしまっておいてね」
てんでばらばらに返事が上がった。
車から出て外を見まわすと、かなり高い山だと初めて気がついた。
「結構高くまで来たもんね」
「ああ。山が呪力の力場になってるから、外からだと結界効果で分からないんだよ」
「ここからどれくらい?」
「林抜ければすぐた。だらだら歩いて15分くらいだし、平坦で下草も少ないから歩きやすい」
「そっか」
そう言って、あかりは林の奥に視線を投じた。
どうにも不思議な呪力が満ちている。
「……なんか、伊勢の山に似てる」
あー山登りするか―と、やる気なく香葵は伸びをした。