銀の魔術師と捕縛の糸
spinoff-健一-「あたしはここの住人。ここ住んでるの。あんたらは誰?」
「ここ住んで……?」
「へーここ住民登録できんだ」
小田原は怪訝な顔をして、健一はのんきに返事をしながら砂を払った。
組合通せば登録できるかもなあ、と健一は呟く。
「あんたらは?」
「俺、凪健一、22歳。よろしくー」
ぱんぱんと手を払いながらかるーく挨拶する健一と、それにパカッと口をあけて呆れてしまった小田原。
そうだ、あのころは健一が非常識で小田原が常識的だった。
健一はそれを思い出してくすくすと笑った。
その後、立て続けに健一は小田原の事を紹介した。
「そっちは小田原和樹。22歳」
小田原は口をぱくぱくさせている。
「あたしは羽月って言うのー。よろしくー」
「ああはいはい」
健一と羽月は早くも友情をを築き、小田原それにめまいを起こしている。
「で、羽月さん。君何でこんなところに落っこちてきたのさ」
狙い澄ましたように健一の真上に。
「あーうん。それはねー飛んでたら鷹と激突しそうになっちゃって。回避したら突風吹いてきちゃって落っこちたらここだったの」
「あー飛んでたら」
――飛んでたら。
あれ?
――飛んでたら?
これが、健一にとっての怪異との出会いだった。
登場が登場だったが、羽月は美女だった。
ただ、金髪に青い目、白い肌とどこぞの貴族と言った容姿でとんだじゃじゃ馬である。
彼女は八咫鴉だと言った。
「八咫鴉ってあれだろ。神武天皇の東征を導いたって言う」
「そうなの?」
「そうじゃないの?」
「俺に聞くな」
小田原がそっぽを向いた。
健一はバケモノだよなあ、と呟いた。
本人を目の前にしようが、あっけらかんとしたままである。
ついでに、神聖な物ともさらさら思ってなかった。
あくまで対等に生き物である。
「それはともかく、八咫鴉って言ったらアレだろ? 組合に登録あったよな。卿伯」
「そうそう」
「ここの住人ってことは、この山が八咫鴉の棲家なのか?」
「あたしはここに居ついてるけど、ほとんどは異界の奥の奥に住んでるわ」
そりゃ失礼した、と健一はおどけた。
「平気平気。基本的には入ってこれないわ。あそこの呪力、わかる?」
「ああ」
あれは結界、と羽月が言った。
「森と山が作った天然の力場。魔術師でも簡単には入ってこれないわ。招き入れて中を知ってれば別だけど」
そこで健一と小田原は合点した。だから呪力の流れが違うのか。
「どうかしたの?」
「いやいや何でも」
二人してひらひらと手と首を振った。